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透明の時 

 投稿者: 秋水 冽  投稿日:2012年 7月 9日(月)21時32分50秒
編集済
 

                                   2009年3月28日

  瓶の口からゾロゾロとうじ虫が這い出てくる。
瓶は、白いペンキが少し剥げたテーブルの上にあった。

立秋を過ぎたところだった。日中の日差しはまだ強くうんざりするほどの残暑だった。マンションの、広すぎると言ってもいいぐらいのベランダに、ポツリとテーブルとイスが置かれていた。テーブルの足元に汚れたバスローブが絡みついている。壁際に日焼けの為少し黄ばんだ洗濯機が見える。瓶の傍に、ビールの缶が転がっている。

ベランダには異臭が漂っていた。テーブルの周りで、数人の男達が慎重な動作で動き回っている。その中で二人の男が洗濯機を挟むように立って、中を覗いていた。一人は、若くて背が高かった。もう一人の方は、がっしりした肩幅で五十になるかならないかの年格好に見える。

「殺人(ころし)でしょうかね、志万(しま)さん」
顔をあげながら、若い男は傍らで汗を拭いている男に問いかけた。
洗濯機の中で男が死んでいた。手足を折り曲げ、隙間無くピッタリとはまりこんでいる。まるで
缶詰めでも開けたときのようだった。全裸の死体の所々が腐敗を始めている。

「わからん。どっちにしても我々は両方の線から調べてみなければならない」
志万と呼ばれた年配の刑事は、汗を拭っていたハンカチを無造作にズボンのポケットにねじ込んだ。はめている白い手袋の指先が、鼠色に汚れていた。志万はテーブルに歩み寄った。
瓶の口でうごめいているうじ虫を指先で弾き飛ばして、瓶を取り上げた。

指紋採取が済んでいるのは確かめてあった。異臭が鼻を突いていてくる。ラベルに目を走らせる。[潤香]と印刷された青い文字が読み取れた。
「志万さん、さっき見たときから気になっていたんですけど[じゅんこう]って、なんですかね」
若くて背の高い男が訊いた。

『じゅんこう』志万は、腹の中で反芻して苦笑した。『ちがいない』
「これぁな、うるかと読むんだ」
瓶の蓋を閉めながら、志万はサラリと言った。その名に当てられた漢字を疑いたくなるような悪臭が、鼻の奥に残った。

「へえ、うるかと読むんですか。なるほど、言われてみればそうですね。うるかかぁ」
妙に得心したように語尾を延ばして、若い男は納得顔になった。
「で、これって、何なんですか」
志万はそう言う男の顔を見据えた。若い顔に、新しい知識を吸収しようとする貪欲さが見て取れた。

「鮎の腸腑を塩漬けにしたものだ」
言いながら志万は手の瓶を、若い男に向けて差し出した。
「戸川、これを持って帰ってくれ」
「え」
虚をつかれて、戸川と呼ばれた若い男は瓶を受け取りながら一歩後ずさりした。

「これは徳島の特産品だ。珍味とされているものだから、そうお目にかかれるものじゃあない。
どこで売られてどんな人間が買っていったか調べてこい」
「志万さん、よくご存知なんですね。へぇ徳島の特産……ね」
戸川は感心したように、間の抜けた声を出した。

「でも、志万さん」
テーブルの周りにいた鑑識課員たちは、すでにその場を離れていた。
「同じことを二度は言わないぞ、戸川」
刑事としてたたき上げの志万だった。

一級国家公務員の資格を持って配属されて来た戸川と、コンビを組まされて一年半になる。階級は戸川が上である。だが、戸川がそれを嵩にきたことはない。それどころか、志万の後輩刑事としての立場を一貫してきていた。志万も戸川の意思を受け入れていた。敢えて、上司として扱うことはしなかった。

どこか茫洋としたところのある戸川だったが、志万の指示する激務にも音をあげずによくついてきていた。時には育ちの良さからくる鈍感さに苛立つこともあるが、優れた警察官になるだろうと思わせるものを持っている。志万はそんな戸川が嫌いではなかった。

「これ、持って行っていいんですか」
「かまわん、報告は俺がしておく。少々臭いがな、我慢しろ。なんならそれで一杯やってもいいぞ」
「少々どころじゃありませんよ、志万さん。これは、かなわないや」
わざとらしく鼻をつまんでから、戸川は署から持ってきたビニールの小袋に瓶を入れると、上着のポケットに落とし込んだ。

死体の身元は判っていた。この部屋の住人だった。名は忍倉哲(おしくらてつ)、年齢三十五歳。
変な臭いがしてくると、同じマンションの住人からの苦情で、管理会社の担当者が鍵を開けて、死体を発見したのである。




死体が発見される十日前、
「ただいま。凌子、帰ったよ」
忍倉哲は、玄関を開けるなり奥にむかって声をかけた。汗が噴き出してくる。熱気の籠もった部屋の中は静まりかえっている。灯りもついていなかった。

「凌子、いないのか」
靴をぬぎながらもう一度声をかけた。哲はまっすぐリビングに入って行き、壁のスィッチに手をのばした。カチリという音と同時に、部屋の中が煌々と照らし出された。
室内は整然と片付けられている。哲は部屋の中を見回してから、鞄と手提げの紙袋を床に置いた。
「どこに行ったんだ」

つぶやきながら服を脱ぎはじめた。足元に背広の上着やズボンが無造作に重なり落ちる。最後にトランクスを脱ぎ捨てると哲はキッチンにはいって行った。冷蔵庫の中の缶ビールを取り出すと、次に食器棚の引き出しから割り箸を手に取った。
リビングに戻った彼は、紙袋のひもに中指をひっかけると、ベランダに通じているガラスサッシの引き戸をいっぱいに開け放った。

温もりの残った外気が全身を包み込んでくる。それでも、部屋にはいるなり熱気に包まれて火照った身体には充分に心地よかった。
ベランダに出ると洗濯機にチラリと視線を送って、テーブルに歩み寄った。
哲にとっては、ここがどこよりもいちばん安息できる場所だった。ベランダに灯りはない。

リビングから漏れてくるだけのかすかな灯りだけが視界の頼りだった。持ち出してきたビールや紙袋を丸いテーブルの上に置いた。洗濯機に正対して置かれた洒落たデザインのイスに哲は腰をおろした。缶ビールのプルトップを引くと、空気の抜ける音がして僅かな泡が指を濡らした。指の泡を舐めてからビールを口に含む。心地よい苦さが喉を通っていく。

「凌子」
呼んでみた。目の前にある洗濯機が、風に吹かれたようにカタカタと音をたててかすかに揺れた。
「なんだ、居るんじゃないか」
哲はイスから立ち上がり、洗濯機に歩み寄った。閉めてある蓋の上を両の手の指先で撫で、その手をゆっくりと側面にすべらせていく。

「凌子、さっき僕がただいまと言った時、なんで知らん顔していたんだ」
哲は愛おしそうに洗濯機を抱え込んだ。
「凌子、お願いだから僕にいじわるしないでくれよ」
抱きかかえたまま、洗濯機の蓋に頬を押し当てて、哲は切ない声を出していた。

洗濯機が小刻みに振動した。哲は身体を起こし、もう一度蓋の上をそっと撫でた。
「機嫌を直してくれたんだね。よかった」
哲は踵をかえしてリビングにはいって行った。脱ぎ捨てたままの下着を拾い上げると、ベランダにとってかえした。

洗濯機の蓋をあけて、下着を洗濯機の底に丁寧に置いた。その上から洗剤をふりかける。
「凌子、いつものように僕のせんたくもの、きれいにしてくれるよね」
蛇口をひねった。注水口から勢いよく水が流れ出てきた。洗濯機がブルッと身を震わせた。
哲はタイマーのダイヤルを回した。水は出したままだ。いつもこうしていた。

洗濯機が靜かに回転し始めた。回転と反転を繰り返す。そのたびに水が勢いよく渦を巻く。哲はしばらくその渦の動きを見ていてイスに戻った。
紙袋の中から、袋の大きさには不釣り合いな小さい瓶を取り出した。

「うるかを貰ったよ。凌子も好きだっただろ。こどもの頃、おやじの酒の肴に買ってあったのをこっそり持ち出して、二人で食べてしまってよく叱られたことを覚えているかい」
哲は、洗濯機にむかって語りかけながら瓶の封を切った。




署の刑事室に、戸川が汗と埃で顔をベタつかせて帰ってきた。夜の九時をまわったところだった。
「志万さん、だめでした。かなり足を延ばしてスーパーやデパートにあたってみたんですが、どこもこの[潤香]は扱ったことがないと言っています」
入ってくるなり志万の姿を見留めて、戸川は堰を切ったように言った。そう言いながら部屋の隅に置いてあるポットの冷えた茶を一気に三杯飲み干した。

人心地ついたという顔をして、志万の隣にある自分の机に着いた。
「ごくろうさん」
回転椅子ごと体を戸川に向けて、志万は今しがたまで読んでいたノートを手渡した。
「なんですか、これ」
「読んでみろ」

戸川がノートを広げて目を走らせる。頁を追うにつれて、彼の顔に怪訝な表情が浮かんできた。戸川が顔をあげた。
「死んだ忍倉の日記だよ。散発的につけていたようだな」
「だけど志万さん、忍倉は一人暮らしをしていたはずじゃあないですか」
戸川はノートに目を落とした。

「これじゃあ、同居者がいたみたいだ」
「戸川、明日一番に忍倉の故郷(くに)をアラってくれ。今日、ホトケの勤め先だった会社へ行ってきたが、こっちは問題なさそうだ」
戸川が弾かれたように椅子から立ち上がった。

「それだったら、調べてきました」
上着のポケットから手帳を取り出して、パラパラと頁を繰った。指を止めたところでメモした内容を読み上げる。

「忍倉は、徳島の出身です。今でも本籍は徳島にあります。現場となったマンションに転入してきたのは十七年前です。忍倉の年齢から計算すると十八歳の時ですね」
志万は腕組みをして宙の一点を見つめていた。戸川は間の抜けたことをしでかす事があるかと思うと、志万の考えていることを先読みして妙に感心させるところもあった。これが戸川のいいところなのだ。宙を見ていた志万の口元が綻んだ。

「志万さん、なにか」
戸川が生真面目な顔をして訊いてきた。
志万は視線を戸川の顔に移した。そこには謎を解明するために真剣に臨んでいる、汗と埃で汚れた
若い刑事の顔があった。

「うん――戸川、忍倉の身寄りはこっちにはいないようだ。おまえ、あした本籍地の所轄署にあたってみてくれ」
志万は、現場検証が終わった後、隣近所やマンションの周辺を聞き込みに廻った。共通していたのは、殆どの住人が、忍倉とは面識がなくどのような生活をしていたのか知らないというものだった。

断片的にでてきた情報を繋ぎ合わせてみて、忍倉は一人暮らしで訪れてくる人間はいなかったらしいことが判ったくらいだった。
志万は机の上の大学ノートを手に取ると頁を開いた。読み返してみる。次の頁もまた、丹念に読み返してみた。記されている日付は一か月のうちの一度か二度しかない。

どの日付の書き出しも、凌子という呼びかけで始まっている。それも、共に生活していると思わせる内容だった。

洗濯機の中で奇妙な死に方をしていた忍倉哲の姿を、志万は思い起こしていた。







洗濯機に語り始めた哲は、話を続けた。
「凌子、きょう叔母さんがきたんだ。このうるかは叔母さんのおみやげなんだ」
そう言うと哲は割り箸の先にうるかをつけて、チビリと舐めた。二・三回舐めてはビールを一口飲み、ゴロゴロと音を立てて回っている洗濯機を見やる。

洗濯機は機嫌よく動いていた。
「凌子、叔母さんがねぇ、僕に早く結婚してくれって言うんだ。田舎にいい娘がいるからって、写真を持ってきたんだよ。今までは手紙といっしょに送ってきていただけだったのに、何を思って出てきたんだろう」

洗濯機が、ガタンと大きな音を立てて回転を止めた。
「ああ、凌子怒らないで。ほら僕の下着、まだ途中だよ。最後まで洗ってくれよ」
哲は洗濯機にやさしく声をかけた。
機が再びゴロンと回転を始める。哲はそれを見て安堵したように笑った。

洗濯が済むまでは話しかけないことにした。哲は洗濯機を見つめながら、チビチビとうるかを舐めてビールを飲んでいた。缶のビールを飲み切ったところで、洗濯機の回転音がやんだ。哲は立ち上がって洗濯機に歩み寄った。蓋をあける。注水口からは勢いよく水が流れ落ちている。中の下着を取り出して軽く絞った。いつもなら、それから蛇口を閉めるのだがこの日はそのままにしておいた。

「凌子、僕はシャワーを浴びてくるよ。君にも水を出したままにしておいてあげるからね、涼んでおいで」
哲は空いている手で軽く洗濯機の縁を撫でてから、下着を手にしたままリビングに入って行った。
洗面所据えてある乾燥機の中に下着を放り込んだ。

洗濯機には脱水機能がついていなかった。手動式で一槽だけの古いタイプのものだった。乾燥機のスイッチをONにしてから、哲は浴室に入った。
「今夜こそ、実行しよう」
シャワーを浴びながら、哲は心を決めた。浴室からでると濡れたからだにそのままバスローブを羽織った。バスローブはすぐさま水分を吸収して、背中にペタリと貼り付いてきた。
哲はキッチンの冷蔵庫の中から二本目のビールを手に取って、ベランダに戻った。

リビングからの仄かなあかりで、洗濯機が闇の中に白く浮かび出ていた。排水ホースから流れ出ている水は透明で、時折キラリと光を放っている。



徳島の所轄の警察署からファックスで届いた資料を持って、戸川が急ぎ足でやってきた。
「志万さん、わかりましたよ。忍倉の身寄り、徳島に叔母がいます」
志万が机の上に開けた大学ノートから目をあげた。徳島の警察署に照会していた回答が、詳細にプリントされていた。

「志万さん、また忍倉の日記ですか」
 報告書に目を通している志万に、戸川が大学ノートを見て言った。
「何かがひっかかるんだよ。どうも妙な気がする」
 志万は大学ノートを横目に見て腕を組んだ。

「いつもの勘ですか」
「いや、それとも違う。しかし殺人でも事故でもないような気がしてな」
 志万は自身が忍倉の死にひっかかりを覚えていることを、率直に話して聞かせた。
「殺人でも事故でもないとすると、自殺ですか」
 戸川の言葉に、志万の口から唸り声が洩れた。

「でも自殺にしては、おかしな死に方ですよね。わざわざ窮屈な洗濯機の中にはまりこんで自殺なんかするでしょうか。だいいち、いくら細身の体でも自分ではまり込むのは無理じゃあないですか」
素朴な疑問だった。
志万は今日まで多くの事件を解決に導いたが、その時の確信に近い勘とは異なっていた。
確信の持てない勘だった。それでも、長年の刑事としての経験が、志万に何かが違うことを教えていた。

「五里霧中だ」
志万は腕組みを解いてボソリと言った。
「志万さん、忍倉の叔母には何て言って知らせましょうか。検死解剖が終われば遺体を引き渡してやらないとだめでしょう」
志万がやおら立ち上がった。机の上の大学ノートと資料を鷲づかみにすると、勢いよくドアに向かって歩き出した。
「戸川、行くぞ」
志万の背中越しに飛んできた声に、戸川はあわてて後を追った。
建物を一歩出た途端に汗が噴き出してきた。暑さは一向に衰える気配を見せない。志万の足取りは速かった。コンパスの長さでは、戸川の方が断ぜん長い。志万がいくら速歩で歩いても、戸川は悠然とついて歩くことができた。吹き出る汗を拭いもしないで、戸川は志万の後についていた。
「志万さん、どこへ行くんですか」
無言で歩き続ける志万の後から、戸川が声をかけた。
「徳島だ」
足も止めずに志万が答えた。
「徳島って、僕もですか」
戸川が志万の前に廻り込んで言った。足は動いているので戸川は後ろ向きに歩く格好になった。
志万が足を止めた。
「嫌なら来なくていいぞ」
志万が見上げた戸川の顔に喜色が浮かんでいる。
「嫌だなんて、とんでもない。一緒にいっていいんですね」
戸川は歩き出した志万に肩を並べた。


忍倉哲の眼前に、遠い日の光景が繰り広げられていた。
閃光に包まれたように真っ白の世界があった。その中で、少女の凌子が横たわっている。その姿も光に溶け込んでしまったかのように真っ白だった。額にも頬にも唇にも色はなかった。傍らに表情を無くしたまま、凌子をみおろしている中学生の哲がいた。周りで数人の人間が慌ただしく動きまわっていたが哲の目には凌子しか映っていなかった。

やがて人々の手によって凌子は運び去られた。一人になった哲は、その場にうずくまり全身を震わせていた。膝の間に顔を埋めて、捕まえた何かを逃がさないようにしっかりとその膝を抱え込んでいた。



洗濯機の中の水が音を起てて跳ね上がった。哲は我に返った。目の前の光景が一瞬にして消え失せた。
「凌子、気持ちよくなったかい」
哲の目に洗濯機の凌子が映っていた。椅子を立って声をかけながら哲は洗濯機に近寄った。開いたままになっていた蛇口をしめる。水の音が止み、静寂が辺りを覆った。

哲は膝を折って洗濯機に抱きついた。ひんやりとした感触がバスローブを通して伝わってきた。
「ああ、気持ちがいいね凌子」
哲はうっとりとした声を出した。
「叔母さんがね、写真を見せながら言うんだ。早く身を固めて安心させてくれって。僕には凌子が居るといってもわかってくれないんだよ。居なくなった人のことをいつまでも言っていないで、早く忘れてしまえって。凌子、君はここに居るのにね。あの時、凌子は僕だけのものになった。あれから僕達はずっと一緒だったのに。どうして解ってくれないんだろう」

哲が囁くように言うと、洗濯機が軋んだ音を発てた。
「そうだろう、君だってそんなこと言われたら悲しいよね。でも悲しまなくていいよ。僕には凌子しかいないんだから、凌子以外の女となんか決して結婚しないからね。他の人間の物を凌子に洗わせることも絶対にしないよ。あの時も、君はお兄さんの下着を洗っていたよね。君は笑っていたけど、本当は厭だったんだ。僕にはそれが分かった。だから凌子を、僕だけのものにしてあげたんだよ」

哲は洗濯機を抱えたまま話を続けた。
「だけど、今日叔母さんが出てきたということは、これから益々うるさく言ってくるのだろうな」
哲は眼を閉じた。洗濯機に手を回したまま、もたれかかるようにしゃがみこんでいた。
「凌子、結婚しよう。僕たちが結婚してしまえば、叔母さんもうるさく言ってこなくなるよ。僕は決心したんだ。凌子がいるだけで幸せだったから、今日まで延ばし延ばしにしていたけれど、今日こそ結婚しよう。僕を凌子だけものにするためにもね」

自分の言葉に酔ったように、哲の表情は恍惚としていた。
哲はゆっくりと立ち上がると、その場でバスローブを脱ぎ捨てた。洗濯機の縁に腰を掛けて両足を洗濯槽の中にいれると、冷やりした感触が両の足を包み込んできた。哲は夢見心地になっていた。
それから、静かに洗濯槽の中に体を滑り込ませた。膝を折り曲げて屈もうとしたが、うまく屈めなかった。

「凌子、痩せているじゃないか。前はもっとゆったりと僕を抱いてくれていたのに」
洗濯槽の中で立ち上がった哲は、水の中に手を入れて槽の内側をやさしくさすった。
「ごめんよ、僕が叔母さんの持ってくる縁談の話を聞かすたびに、君は心を痛めていたんだね」
哲の声は甘美な響きと、思いやりに満ちていた。

それも今日で終わりだよ。これから僕たちはひとつになるのだから」
哲は、もう一度慎重に膝を折った。関節が水の中で気味の悪い音をたてた。水が大きく波打った。
「うまくいったよ、凌子。子どもの時に、嫌な家庭教師にこれを見せてやったんだ。そうすると、気味悪がって必ず辞めていくんだ。おもしろいだろう」

陶酔した笑みを顕わにして、哲の体が萎えたように洗濯槽の中に沈んだ。水が音を発てて溢れ出た。洗濯機の表面を幾筋もの流れになって、伝って落ちていく。




検死の結果、忍倉哲の死因は溺死だった。他に大腿、膝、肩、肘の四か所の関節脱臼が認められた。死後およそ十日が経っていた。
忍倉哲の叔母を訪ねて行く途中だった。乗り継ぎのバス停で、出発したばかりのバスを志万と戸川は見送っていた。次は四十五分後までなかった。
「志万さん、どこかでお茶でも飲みませんか」
戸川が情けない声をだした。声とは裏腹にその表情は弾んでいた。

「俺はいつも、おまえのその情けない声に騙されるんだよ」
志万が苦々しげに言った。
「僕は志万さんのその優しげな顔で、動かされているような気がするんですけど」
優しげ、を強調するように戸川が言い返した。

「志万さん、我々が洗濯機の中を見た時は中に水は入っていませんでしたよね」
バス停の近くに見つけた、古びた喫茶店で志万と戸川は対座していた。死因が溺死という部分は声を落して言った。狭い店の入り口に近いテーブルに二人は座っていた。他に若い三人のグループ客がいた。奥のテーブルに陣取った三人は声高に話をしている。志万と戸川に全く関心を示してこないことが二人には幸いしていた。

運ばれてきたアイスコーヒーに、志万は手を伸ばした。ストローを使わずにそのまま口に運ぶ。
店の雰囲気を全く裏切ることのない、ひどい代物だった。志万が渋面をつくった。
「まずいですか」
それを見ていた戸川が、上半身を乗り出して訊いた。真面目な顔をしていたが目が笑っているのがわかった。

志万が渋面をつくったのは、コーヒーの味のせいだけではなかった。何とか考えはまとまってきているのだが、どうしても結論が出せないでいるのだ。
忍倉哲の叔母に話を聞いたところで、結論がだせるかどうかも確信は持てていない。
知らず知らずに渋面になっていた。





忍倉哲の叔母、守本佐紀は忍倉の生家敷地内にある離れの家に夫と住んでいた。
刑事と名乗る二人の男の突然の訪問に、驚きを隠せないでいた
志万が手短に訪問の趣旨を告げた。さすがに年の功である。志万は佐紀の不安を和らげるように、うまく言葉を選んでいた。

二人は座敷に通された。
離れといっても立派なものだった。都会で見慣れている建て売りの一軒家より、余程贅沢な造りである。忍倉の生家は敷地だけでも千坪はあろうかと思われるほどの大邸宅だった。徳島でも屈指の旧家である。

佐紀が茶を載せた盆を持って入ってきた。
「甥が……なにか」
二人の前に茶を置くと、控え目に居まいを正して佐紀は訊いた。
志万が、マンションで忍倉哲の死体が発見されてから今日までの経緯を順を追って説明した。

志万が話している間、守本佐紀は唇を震わせながらも、取り乱すこともなく無言で聞いていた。
守本夫婦に子どもはいない。忍倉哲の血の繋がった身寄りは、佐紀だけである。
「守本さん、いくつかお尋ねしたいことがあって、今日はお伺いしました」

説明を終えると、少し間をおいてから志万は言った。
「最後に甥ごさんの、忍倉哲さんに会われたのはいつですか」
佐紀は着物の袖口から襦袢の袖をのぞかせて、目頭を押さえていた。
「十日ほど前です。甥の結婚相手に好い娘さんがいらっしゃるので、その話をしに私の方から会いにでかけました。その時にはとても元気でいましたのに」
言葉尻が嗚咽に変わっていた。

「それは、何日だったか覚えておられますか」
戸川が隣で手帳を開いていた。素早く鉛筆を走らせている。佐紀が目をあげた。その顔に不安が広がるのがありありと見てとれた。
「守本さん、心配しないでください。あなたを疑っているわけではないのです。忍倉哲さんの死はまだ事件とも、事故とも断定できていないのですよ。ただ忍倉さんが発見された時には、死後およそ十日が経っていたと思われるのです。我々はひとつひとつの事柄の確認をしておかなければならないのです」

志万が穏やかな口調で言うと、佐紀は小さく首を回して壁に吊りさげられているカレンダーに目をやった。
「あの日は火曜日でしたので、二日です」
カレンダーを見据えたまま、佐紀は呟くように言った。

「私、あの子の好きなうるかをおみやげにしようと思っていましたの。駅前のデパートに置いてあるうるかが、とてもおいしいんですの。はじめはあの子の仕事がお休みの三日に行く予定にしていたのですが、デパートが水曜日が定休日になっているのを思い出しまして。行く道で買うつもりでいましたので、それと少しでも早く好いお話を持って行きたくて、一日早めたんです」
 佐紀は視線を戻して、ゆっくりと答えた。目尻から涙が溢れて流れおちた。

「守本さん、これは忍倉哲さんの日記です」
志万は、持ってきた大学ノートを座卓の上に置いた。
「参考の為に裁判所の許可を取って、読ませていただきました。この中に凌子という名前が出てきます。この名前の人物にお心当たりがあれば、お聞かせ願えませんか」
志万の物言いは、どこまでもやわらかかった。佐紀の目が落ち着きなく宙を泳いだ。

「守本さん」
志万の語気が少し強まった。
「お読みになってみてください。お心苦しいでしょうが、忍倉哲さんの死の真相を明らかにする為に」
佐紀は躊躇していた。人の日記を読むことに抵抗を感じているのかも知れない。或いは内容を知ることにためらいを覚えているようにも見えた。

「私の存じ上げている凌子ちゃんは、二十一年前に亡くなっています」
日記には触れようともしないで、佐紀は言った。声が震えている。戸川は手帳とり落としそうになって、息をのんだ。志万が佐紀の次の言葉を促すように、わずかに頷いた。
「この村の、やはり旧家のお嬢さんでした。不幸な事故で亡くなっています。まだ十二歳でしたのに」
佐紀が言葉を切った。あまり話したくない様子が窺えた。
さっき日記を読むように言われた時のためらいは、このことに関係しているのかも知れない。

「哲さんは、その頃どんなお子さんでしたか」
志万が話題をそらした。佐紀は志万の言ったことの意味が、よくのみこめないという表情をしている。
「難しく考えないでぐさい。言葉通りの意味しかありません」
佐紀は少しうつむき加減に視線を落とした。

「甥は幼いころからとても頭の良い子でした。学校の先生も将来を期待して下さっていました。もちろん、あの子の両親もそれはそれは楽しみにしておりました。ただ学校にはあまり行かずに、ひとりで部屋で過ごすことが多かったようです。そんな事もあって小学校六年生になった時、大学を卒業した方を家庭教師として専属で雇ったりもしていました。でも、家庭教師の方々は、どなたも長続きしなかったので、あの子の両親も一年ほどで家庭教師をつけるのを諦めてしまったようです」
ここまで言うと、佐紀は口をつぐんだ。

「家庭教師が長続きしなかったのは、なぜでしょう」
志万は少し間をおいてから、訊ねた。
「さあ、詳しいことは存じません。殆どの方が、甥の頭が良すぎて『とても、自分には勤まらない』と言って辞めていかれたと聞いておりました。ただ――」
そう言うと、佐紀は言いよどんだ。

「ただ?」
志万はしばらく待った後で、佐紀の言葉を複唱して次の言葉を促した。
「偶然のことだったのですが、家庭教師の方が変えられる時に『気味が悪い』と呟いておられたのを耳にしたことがございます。その時は聞き違いかもしれないと思い、私も気にかけもしませんでした」
「哲さんは、柔道とか、空手のような武術を習得されていましたか」
志万の質問に佐紀の目がしばたいた。
「私の知る限りでは、そういったものは習っておりませんでした」
「哲さんは十八歳の時に、あのマンションに入居されていますね」

「はい、大学を合格した時にあの子の父親がお祝いにと、買って与えたのです。見つけてきたのは甥でした。なんでも、そこのベランダが広くてたいそう気に入ったと申しておりました」
「ところで守本さん、凌子というお嬢さんが亡くなったのは、どのような事故だったのですか」
佐紀の顔がこわばった。膝の上で重ねた手が痙攣をおこしたように震えた。
「お聞かせください」
たたみかけるように、志万は言った。

「凌子ちゃんのお家は、あの頃ではまだ珍しかった洗濯機を持っておられました。洗濯機がお家に届いた日には、村の者がみんなこぞって見学に行ったのを覚えています。忍倉の家もそうでしたが、
凌子ちゃんのお家も使用人を何人か抱えておりました。家の者は洗濯などはいたしませんでした。買われて間のなかった洗濯機を、自分で使ってみたかったのでしょうか。凌子ちゃんはお兄さんの洗濯物を洗っていたそうです。夏の暑い盛りの日でした。使用人のひとりが偶然見つけた時――」

佐紀が咽んだ。手帳に鉛筆を走らせていた戸川は、腰を浮かさんばかりに身を乗り出していた。
「凌子ちゃんは、洗濯機の中に頭からはまった格好で、溺れていたそうです」
佐紀はここまで言うと、大きく息をついた。
「それで、そのまま事故死ということになったのですか」
志万の声は穏やかだった。

「いいえ、凌子ちゃんのお父様が、はまり方が不自然だと言って、警察に届けられました。しばらくは警察もいろいろと調べていたようですが、結局は事故というお沙汰になったのです」
「哲さんと凌子というお嬢さんは、仲が良かったですか」
唐突に切り出した。佐紀が目をみはった。

「凌子ちゃんは、甥よりふたつ年下でしたし、甥は学校にもあまり行かなかった子でしたから、お互いに顔と名前くらいは知っていたでしょうけれど、その程度のことだったと思います。ふたりが一緒に遊んでいたところも見たことがございません」
時々感情を抑えきれないように、涙をこぼしたり咽んだりしていたが、佐紀の態度は始終落ち着いていると志万は見ていた。
「守本さん、その洗濯機を見られたことはありますか」
「いいえ、あの頃は珍しい物でしたし、見てみたいとは思いましたが……」
「ご覧になったことはない」
「はい。その時にはアメリカ製のものでたいそう珍しい物だと聞いておりましたけれど、ほどなく忍倉の家でも同じ物ではなかったと思いますが、購入いたしましたのでどのようなものか知ることができましたし」
佐紀の口調は、あくまでも控え目だった。
「哲さんのマンションの洗濯機は、ご覧になったことは」
「残念ですが、甥のマンションに行ったことがありませんので、洗濯機はおろかどのような生活振りなのかも、見たことはございませんの。この前に訪ねた時も、甥の勤務先の近くのレストランで会って、そのまま帰って参りましたものですから」
「日記、お読みになりませんか」

志万は座卓の上に置かれたままの日記に目を落とした。佐紀は静かに首を振った。
「読んで甥が帰ってくるのでしたら読みもいたしますが、今となっては何をしても甥は帰って参りません。私がしなければならないことは、甥が亡くなったという事実を受け容れる努力だけでございます」
佐紀は力なく肩を落とした。対面してから初めて見せる気弱な姿だった。ただ一人血の繋がった甥を無くした叔母の悲しみがそこにあった。


洗濯機が、機体を揺らしていた。いつもの下着だけの比ではない重みがかかっている。いつも自分にやさしい声をかけてくれる哲が、自分の中に沈んでいる。哲は自分のことをずっと「凌子」と呼んでいたが、自分は凌子なんかじゃない。哲が勝手にそう思い込んでいるだけだ。だけどそんなことは、どうでもよかった。
だれにも愛されなくて、いつも寂しい思いをしていた自分にやさしく声を掛けてくれたのが哲だった。

家族はいた。だけど異腹の自分の居場所などなかった。クリマスイブのあの日、みんながイブのパーティを楽しんでいるとき、自分はパーティに参加させてもらえずに、上辺だけの家族の下着を洗っていた。
そのときの洗濯機が漏電していた。洗濯層の中に手を入れた途端に自分は感電して動けなくなってしまった。
悲鳴をあげて助けを呼んだけれど、賑やかなパーティ会場で自分の声を耳に留めてくれる人間など
いなかった。自分はそのまま……

そして、哲の甘い呼びかけで目が覚めた。目覚めた場所は、広くて風通しの良いところだった。
見晴らしも良くて、夢見心地になったのを覚えている。

哲のとった行動は嬉しかった。哲の言うように2人だけで昇華したかった。
哲は自分の中で陶酔している。

水中で発せられるはずのない声も聞こえる。
「凌子、じっとしていてくれよ。でないと苦しいよ」
その声に負けて、洗濯機は静止していた。
次には、哲の肺の中に水が入り込んでいく音が聞こえてくる。耐え切れずに機体を揺らすたびに

洗濯機の表面は水を浴びせたように濡れていった。
「凌子、じっとして。決めたことなんだよ。せっかく気持ちよくしているのに、乱さないでくれ――」
水の中から、哲の声が響いてくる。洗濯機が揺れを止める。どれほどの時間そうしていたのだろうか。
やがて、哲から話しかけてくる声も、伝わってくる鼓動も感じられなくなった。
「凌子……」
最後に感じ取った哲の声は、それまでにないほど甘やかで豊潤な響きだった。

洗濯機が泣いていた。全身を震動させて、涙を流している。
やがて表面を覆わんばかりに流れ落ちていた水滴も止み、その動きも止まった。

澄んだ風がベランダを吹き抜けていった。



「甥は一人で空想を楽しむ癖がありました。独りよがりな思い込みが強くて、現実と空想の世界の区別がつかなくなってしまったことも度々ありました。あの子の両親も気にはかけておりましたが、格別に心配はしていませんでした。成人すればそんな事はなくなると思っていましたから。私が申し上げられるのは、これだけでございます」
志万と戸川が玄関に立った時だった。
見送りに出てきて上がり框に端坐した佐紀が、志万の目をまっすぐに見つめて一気に言った。

志万は無言で頷くと頭を下げて表に出た。ようやく陽が傾いてきている。
広い敷地の中の木立ちから、涼しい風が吹き渡ってきた。志万は大きく伸びをして、
深呼吸を数回繰り返した。
忍倉哲が洗濯機の中で死んでいたのは、なぜだったのか。守本佐紀に会ったことで、
志万は志万なりに結論を出していた。

「志万さん、守本佐紀の話でなにかわかったんですか」深呼吸が終わるのを待って、
戸川が問いかけた。
「おまえはどうなんだ」
志万が逆に訊き返した。
「訊いたのは僕ですよ。志万さん、意地がわるいなぁ」
ばつが悪そうに笑いながら、戸川が言い返す。
「いいから、おまえが感じたことを言ってみろ」

二人は忍倉の屋敷を後にして広い通りに出ていた。
「いやぁ、正直言ってまるでわからないです。忍倉の日記と守本佐紀の話を総合して考えると、忍倉哲は変質者だったのじゃないかと思えるんですけど。しかし、成績は優秀だったようですしね」
戸川は感じたままを正直に話していた。

「それで、忍倉は事故死か、殺されたのか」
「殺しではないように思います。事故でもないでしょう。残るは自殺です。
しかし、これもちょっと違うような気がするしなあ」
自殺云々のところは殆ど独り言になっていた。

「あ、志万さん」
戸川がいきなり、素っ頓狂な声をあげた。
「忍倉の洗濯機、ゼネラル社製……」
「まったく同じ型のものかどうかは疑問だが、忍倉はあの洗濯機を見つけた時、何かを感じたのだろうな」
志万が首筋の汗を拭きながら応えた。

「忍倉哲は、自分で洗濯機の中に入ったんだ」
ひと呼吸おいて、志万は断言した。志万がずっと感じていた違和感はこれだったのだ。
戸川が首をひねった。
「でも、彼の関節が外れていたのはどうなるんですか。まさか、彼が自分で外したとでも……」

「その、まさかだよ。守本佐紀が言ってたろう、家庭教師が長続きしないと。そして、そのうちの一人が『気持ち悪い』とつぶやいているのを聞いている。忍倉はおそらく、その頃には自分で関節を外したりはめたりすることができたのだ。理由はわからないが、彼はそれを家庭教師にやって見せたりしていたのだろう」
「それじゃあ、やっぱり自殺ですか」

「いや、そうじゃない。忍倉哲は洗濯機と一体化したかったのだ」
二人が歩いている通りに、人の姿は見えなかった。厳しい暑さは残っていても、立秋を過ぎている。
陽が落ちるのは早い。辺りはすでに薄暮になっていた。

「透明の時だな。一点の曇りもない透明の時」
志万が呟いた。志万は、忍倉哲が自ら洗濯機の中に入っていく姿を想像していた。
思春期に抱いていたであろう恋慕の情を、消化することができないまま感情の潮が満ちていったに違いない。

少年の時、少女の凌子を洗濯機に落とし込み自分だけのものにした。確証はなく危険な考えだが、間違いはないと志万は思っていた。
そうして、いつしか忍倉哲の中で洗濯機と凌子がひとつのものになっていった。
それがいつ頃からなのか、今となってはどうでもいい事だった。
志万は、忍倉哲の心情を憐れに思った。

「志万さん、何か言いましたか」
目の前に屈託のない笑顔の、戸川の顔があった。
「何でもない」
志万は、寂しく笑った。

                      おわり
 
 

透明の時(3)

 投稿者:椿  投稿日:2009年 6月24日(水)23時48分2秒
編集済
 

忍倉哲の叔母、守本佐紀は忍倉の生家敷地内にある離れの家に夫と住んでいた。
刑事と名乗る二人の男の突然の訪問に、驚きを隠せないでいた
志万が手短に訪問の趣旨を告げた。さすがに年の功である。志万は佐紀の不安を和らげるように、うまく言葉を選んでいた。

二人は座敷に通された。
離れといっても立派なものだった。都会で見慣れている建て売りの一軒家より、余程贅沢な造りである。忍倉の生家は敷地だけでも千坪はあろうかと思われるほどの大邸宅だった。徳島でも屈指の旧家である。

佐紀が茶を載せた盆を持って入ってきた。
「甥が……なにか」
二人の前に茶を置くと、控え目に居まいを正して佐紀は訊いた。
志万が、マンションで忍倉哲の死体が発見されてから今日までの経緯を順を追って説明した。

志万が話している間、守本佐紀は唇を震わせながらも、取り乱すこともなく無言で聞いていた。
守本夫婦に子どもはいない。忍倉哲の血の繋がった身寄りは、佐紀だけである。
「守本さん、いくつかお尋ねしたいことがあって、今日はお伺いしました」

説明を終えると、少し間をおいてから志万は言った。
「最後に甥ごさんの、忍倉哲さんに会われたのはいつですか」
佐紀は着物の袖口から襦袢の袖をのぞかせて、目頭を押さえていた。
「十日ほど前です。甥の結婚相手に好い娘さんがいらっしゃるので、その話をしに私の方から会いにでかけました。その時にはとても元気でいましたのに」
言葉尻が嗚咽に変わっていた。

「それは、何日だったか覚えておられますか」
戸川が隣で手帳を開いていた。素早く鉛筆を走らせている。佐紀が目をあげた。その顔に不安が広がるのがありありと見てとれた。
「守本さん、心配しないでください。あなたを疑っているわけではないのです。忍倉哲さんの死はまだ事件とも、事故とも断定できていないのですよ。ただ忍倉さんが発見された時には、死後およそ十日が経っていたと思われるのです。我々はひとつひとつの事柄の確認をしておかなければならないのです」

志万が穏やかな口調で言うと、佐紀は小さく首を回して壁に吊りさげられているカレンダーに目をやった。
「あの日は火曜日でしたので、二日です」
カレンダーを見据えたまま、佐紀は呟くように言った。

「私、あの子の好きなうるかをおみやげにしようと思っていましたの。駅前のデパートに置いてあるうるかが、とてもおいしいんですの。はじめはあの子の仕事がお休みの三日に行く予定にしていたのですが、デパートが水曜日が定休日になっているのを思い出しまして。行く道で買うつもりでいましたので、それと少しでも早く好いお話を持って行きたくて、一日早めたんです」
 佐紀は視線を戻して、ゆっくりと答えた。目尻から涙が溢れて流れおちた。

「守本さん、これは忍倉哲さんの日記です」
志万は、持ってきた大学ノートを座卓の上に置いた。
「参考の為に裁判所の許可を取って、読ませていただきました。この中に凌子という名前が出てきます。この名前の人物にお心当たりがあれば、お聞かせ願えませんか」
志万の物言いは、どこまでもやわらかかった。佐紀の目が落ち着きなく宙を泳いだ。

「守本さん」
志万の語気が少し強まった。
「お読みになってみてください。お心苦しいでしょうが、忍倉哲さんの死の真相を明らかにする為に」
佐紀は躊躇していた。人の日記を読むことに抵抗を感じているのかも知れない。或いは内容を知ることにためらいを覚えているようにも見えた。

「私の存じ上げている凌子ちゃんは、二十一年前に亡くなっています」
日記には触れようともしないで、佐紀は言った。声が震えている。戸川は手帳とり落としそうになって、息をのんだ。志万が佐紀の次の言葉を促すように、わずかに頷いた。
「この村の、やはり旧家のお嬢さんでした。不幸な事故で亡くなっています。まだ十二歳でしたのに」
佐紀が言葉を切った。あまり話したくない様子が窺えた。
さっき日記を読むように言われた時のためらいは、このことに関係しているのかも知れない。

「哲さんは、その頃どんなお子さんでしたか」
志万が話題をそらした。佐紀は志万の言ったことの意味が、よくのみこめないという表情をしている。
「難しく考えないでぐさい。言葉通りの意味しかありません」
佐紀は少しうつむき加減に視線を落とした。

「甥は幼いころからとても頭の良い子でした。学校の先生も将来を期待して下さっていました。もちろん、あの子の両親もそれはそれは楽しみにしておりました。ただ学校にはあまり行かずに、ひとりで部屋で過ごすことが多かったようです。そんな事もあって小学校六年生になった時、大学を卒業した方を家庭教師として専属で雇ったりもしていました。でも、家庭教師の方々は、どなたも長続きしなかったので、あの子の両親も一年ほどで家庭教師をつけるのを諦めてしまったようです」
ここまで言うと、佐紀は口をつぐんだ。

「家庭教師が長続きしなかったのは、なぜでしょう」
志万は少し間をおいてから、訊ねた。
「さあ、詳しいことは存じません。殆どの方が、甥の頭が良すぎて『とても、自分には勤まらない』と言って辞めていかれたと聞いておりました。ただ――」
そう言うと、佐紀は言いよどんだ。

「ただ?」
志万はしばらく待った後で、佐紀の言葉を複唱して次の言葉を促した。
「偶然のことだったのですが、家庭教師の方が変えられる時に『気味が悪い』と呟いておられたのを耳にしたことがございます。その時は聞き違いかもしれないと思い、私も気にかけもしませんでした」
「哲さんは、柔道とか、空手のような武術を習得されていましたか」
志万の質問に佐紀の目がしばたいた。
「私の知る限りでは、そういったものは習っておりませんでした」
「哲さんは十八歳の時に、あのマンションに入居されていますね」

「はい、大学を合格した時にあの子の父親がお祝いにと、買って与えたのです。見つけてきたのは甥でした。なんでも、そこのベランダが広くてたいそう気に入ったと申しておりました」
「ところで守本さん、凌子というお嬢さんが亡くなったのは、どのような事故だったのですか」
佐紀の顔がこわばった。膝の上で重ねた手が痙攣をおこしたように震えた。
「お聞かせください」
たたみかけるように、志万は言った。

「凌子ちゃんのお家は、あの頃ではまだ珍しかった洗濯機を持っておられました。洗濯機がお家に届いた日には、村の者がみんなこぞって見学に行ったのを覚えています。忍倉の家もそうでしたが、
凌子ちゃんのお家も使用人を何人か抱えておりました。家の者は洗濯などはいたしませんでした。買われて間のなかった洗濯機を、自分で使ってみたかったのでしょうか。凌子ちゃんはお兄さんの洗濯物を洗っていたそうです。夏の暑い盛りの日でした。使用人のひとりが偶然見つけた時――」

佐紀が咽んだ。手帳に鉛筆を走らせていた戸川は、腰を浮かさんばかりに身を乗り出していた。
「凌子ちゃんは、洗濯機の中に頭からはまった格好で、溺れていたそうです」
佐紀はここまで言うと、大きく息をついた。
「それで、そのまま事故死ということになったのですか」
志万の声は穏やかだった。

「いいえ、凌子ちゃんのお父様が、はまり方が不自然だと言って、警察に届けられました。しばらくは警察もいろいろと調べていたようですが、結局は事故というお沙汰になったのです」
「哲さんと凌子というお嬢さんは、仲が良かったですか」
唐突に切り出した。佐紀が目をみはった。

「凌子ちゃんは、甥よりふたつ年下でしたし、甥は学校にもあまり行かなかった子でしたから、お互いに顔と名前くらいは知っていたでしょうけれど、その程度のことだったと思います。ふたりが一緒に遊んでいたところも見たことがございません」
時々感情を抑えきれないように、涙をこぼしたり咽んだりしていたが、佐紀の態度は始終落ち着いていると志万は見ていた。
「守本さん、その洗濯機を見られたことはありますか」
「いいえ、あの頃は珍しい物でしたし、見てみたいとは思いましたが……」
「ご覧になったことはない」
「はい。その時にはアメリカ製のものでたいそう珍しい物だと聞いておりましたけれど、ほどなく忍倉の家でも同じ物ではなかったと思いますが、購入いたしましたのでどのようなものか知ることができましたし」
佐紀の口調は、あくまでも控え目だった。
「哲さんのマンションの洗濯機は、ご覧になったことは」
「残念ですが、甥のマンションに行ったことがありませんので、洗濯機はおろかどのような生活振りなのかも、見たことはございませんの。この前に訪ねた時も、甥の勤務先の近くのレストランで会って、そのまま帰って参りましたものですから」
「日記、お読みになりませんか」

志万は座卓の上に置かれたままの日記に目を落とした。佐紀は静かに首を振った。
「読んで甥が帰ってくるのでしたら読みもいたしますが、今となっては何をしても甥は帰って参りません。私がしなければならないことは、甥が亡くなったという事実を受け容れる努力だけでございます」
佐紀は力なく肩を落とした。対面してから初めて見せる気弱な姿だった。ただ一人血の繋がった甥を無くした叔母の悲しみがそこにあった。


洗濯機が、機体を揺らしていた。いつもの下着だけの比ではない重みがかかっている。いつも自分にやさしい声をかけてくれる哲が、自分の中に沈んでいる。哲は自分のことをずっと「凌子」と呼んでいたが、自分は凌子なんかじゃない。哲が勝手にそう思い込んでいるだけだ。だけどそんなことは、どうでもよかった。
だれにも愛されなくて、いつも寂しい思いをしていた自分にやさしく声を掛けてくれたのが哲だった。

家族はいた。だけど異腹の自分の居場所などなかった。クリマスイブのあの日、みんながイブのパーティを楽しんでいるとき、自分はパーティに参加させてもらえずに、上辺だけの家族の下着を洗っていた。
そのときの洗濯機が漏電していた。洗濯層の中に手を入れた途端に自分は感電して動けなくなってしまった。
悲鳴をあげて助けを呼んだけれど、賑やかなパーティ会場で自分の声を耳に留めてくれる人間など
いなかった。自分はそのまま……

そして、哲の甘い呼びかけで目が覚めた。目覚めた場所は、広くて風通しの良いところだった。
見晴らしも良くて、夢見心地になったのを覚えている。

哲のとった行動は嬉しかった。哲の言うように2人だけで昇華したかった。
哲は自分の中で陶酔している。

水中で発せられるはずのない声も聞こえる。
「凌子、じっとしていてくれよ。でないと苦しいよ」
その声に負けて、洗濯機は静止していた。
次には、哲の肺の中に水が入り込んでいく音が聞こえてくる。耐え切れずに機体を揺らすたびに

洗濯機の表面は水を浴びせたように濡れていった。
「凌子、じっとして。決めたことなんだよ。せっかく気持ちよくしているのに、乱さないでくれ――」
水の中から、哲の声が響いてくる。洗濯機が揺れを止める。どれほどの時間そうしていたのだろうか。
やがて、哲から話しかけてくる声も、伝わってくる鼓動も感じられなくなった。
「凌子……」
最後に感じ取った哲の声は、それまでにないほど甘やかで豊潤な響きだった。

洗濯機が泣いていた。全身を震動させて、涙を流している。
やがて表面を覆わんばかりに流れ落ちていた水滴も止み、その動きも止まった。

澄んだ風がベランダを吹き抜けていった。



「甥は一人で空想を楽しむ癖がありました。独りよがりな思い込みが強くて、現実と空想の世界の区別がつかなくなってしまったことも度々ありました。あの子の両親も気にはかけておりましたが、格別に心配はしていませんでした。成人すればそんな事はなくなると思っていましたから。私が申し上げられるのは、これだけでございます」
志万と戸川が玄関に立った時だった。
見送りに出てきて上がり框に端坐した佐紀が、志万の目をまっすぐに見つめて一気に言った。

志万は無言で頷くと頭を下げて表に出た。ようやく陽が傾いてきている。
広い敷地の中の木立ちから、涼しい風が吹き渡ってきた。志万は大きく伸びをして、
深呼吸を数回繰り返した。
忍倉哲が洗濯機の中で死んでいたのは、なぜだったのか。守本佐紀に会ったことで、
志万は志万なりに結論を出していた。

「志万さん、守本佐紀の話でなにかわかったんですか」深呼吸が終わるのを待って、
戸川が問いかけた。
「おまえはどうなんだ」
志万が逆に訊き返した。
「訊いたのは僕ですよ。志万さん、意地がわるいなぁ」
ばつが悪そうに笑いながら、戸川が言い返す。
「いいから、おまえが感じたことを言ってみろ」

二人は忍倉の屋敷を後にして広い通りに出ていた。
「いやぁ、正直言ってまるでわからないです。忍倉の日記と守本佐紀の話を総合して考えると、忍倉哲は変質者だったのじゃないかと思えるんですけど。しかし、成績は優秀だったようですしね」
戸川は感じたままを正直に話していた。

「それで、忍倉は事故死か、殺されたのか」
「殺しではないように思います。事故でもないでしょう。残るは自殺です。
しかし、これもちょっと違うような気がするしなあ」
自殺云々のところは殆ど独り言になっていた。

「あ、志万さん」
戸川がいきなり、素っ頓狂な声をあげた。
「忍倉の洗濯機、ゼネラル社製……」
「まったく同じ型のものかどうかは疑問だが、忍倉はあの洗濯機を見つけた時、何かを感じたのだろうな」
志万が首筋の汗を拭きながら応えた。

「忍倉哲は、自分で洗濯機の中に入ったんだ」
ひと呼吸おいて、志万は断言した。志万がずっと感じていた違和感はこれだったのだ。
戸川が首をひねった。
「でも、彼の関節が外れていたのはどうなるんですか。まさか、彼が自分で外したとでも……」

「その、まさかだよ。守本佐紀が言ってたろう、家庭教師が長続きしないと。そして、そのうちの一人が『気持ち悪い』とつぶやいているのを聞いている。忍倉はおそらく、その頃には自分で関節を外したりはめたりすることができたのだ。理由はわからないが、彼はそれを家庭教師にやって見せたりしていたのだろう」
「それじゃあ、やっぱり自殺ですか」

「いや、そうじゃない。忍倉哲は洗濯機と一体化したかったのだ」
二人が歩いている通りに、人の姿は見えなかった。厳しい暑さは残っていても、立秋を過ぎている。
陽が落ちるのは早い。辺りはすでに薄暮になっていた。

「透明の時だな。一点の曇りもない透明の時」
志万が呟いた。志万は、忍倉哲が自ら洗濯機の中に入っていく姿を想像していた。
思春期に抱いていたであろう恋慕の情を、消化することができないまま感情の潮が満ちていったに違いない。

少年の時、少女の凌子を洗濯機に落とし込み自分だけのものにした。確証はなく危険な考えだが、間違いはないと志万は思っていた。
そうして、いつしか忍倉哲の中で洗濯機と凌子がひとつのものになっていった。
それがいつ頃からなのか、今となってはどうでもいい事だった。
志万は、忍倉哲の心情を憐れに思った。

「志万さん、何か言いましたか」
目の前に屈託のない笑顔の、戸川の顔があった。
「何でもない」
志万は、寂しく笑った。

                      おわり
 

透明の時(2)

 投稿者:秋水 冽  投稿日:2009年 4月17日(金)19時58分29秒
  洗濯機に語り始めた哲は、話を続けた。
「凌子、きょう叔母さんがきたんだ。このうるかは叔母さんのおみやげなんだ」
そう言うと哲は割り箸の先にうるかをつけて、チビリと舐めた。二・三回舐めてはビールを一口飲み、ゴロゴロと音を立てて回っている洗濯機を見やる。

洗濯機は機嫌よく動いていた。
「凌子、叔母さんがねぇ、僕に早く結婚してくれって言うんだ。田舎にいい娘がいるからって、写真を持ってきたんだよ。今までは手紙といっしょに送ってきていただけだったのに、何を思って出てきたんだろう」

洗濯機が、ガタンと大きな音を立てて回転を止めた。
「ああ、凌子怒らないで。ほら僕の下着、まだ途中だよ。最後まで洗ってくれよ」
哲は洗濯機にやさしく声をかけた。
機が再びゴロンと回転を始める。哲はそれを見て安堵したように笑った。

洗濯が済むまでは話しかけないことにした。哲は洗濯機を見つめながら、チビチビとうるかを舐めてビールを飲んでいた。缶のビールを飲み切ったところで、洗濯機の回転音がやんだ。哲は立ち上がって洗濯機に歩み寄った。蓋をあける。注水口からは勢いよく水が流れ落ちている。中の下着を取り出して軽く絞った。いつもなら、それから蛇口を閉めるのだがこの日はそのままにしておいた。

「凌子、僕はシャワーを浴びてくるよ。君にも水を出したままにしておいてあげるからね、涼んでおいで」
哲は空いている手で軽く洗濯機の縁を撫でてから、下着を手にしたままリビングに入って行った。
洗面所据えてある乾燥機の中に下着を放り込んだ。

洗濯機には脱水機能がついていなかった。手動式で一槽だけの古いタイプのものだった。乾燥機のスイッチをONにしてから、哲は浴室に入った。
「今夜こそ、実行しよう」
シャワーを浴びながら、哲は心を決めた。浴室からでると濡れたからだにそのままバスローブを羽織った。バスローブはすぐさま水分を吸収して、背中にペタリと貼り付いてきた。
哲はキッチンの冷蔵庫の中から二本目のビールを手に取って、ベランダに戻った。

リビングからの仄かなあかりで、洗濯機が闇の中に白く浮かび出ていた。排水ホースから流れ出ている水は透明で、時折キラリと光を放っている。



徳島の所轄の警察署からファックスで届いた資料を持って、戸川が急ぎ足でやってきた。
「志万さん、わかりましたよ。忍倉の身寄り、徳島に叔母がいます」
志万が机の上に開けた大学ノートから目をあげた。徳島の警察署に照会していた回答が、詳細にプリントされていた。

「志万さん、また忍倉の日記ですか」
 報告書に目を通している志万に、戸川が大学ノートを見て言った。
「何かがひっかかるんだよ。どうも妙な気がする」
 志万は大学ノートを横目に見て腕を組んだ。

「いつもの勘ですか」
「いや、それとも違う。しかし殺人でも事故でもないような気がしてな」
 志万は自身が忍倉の死にひっかかりを覚えていることを、率直に話して聞かせた。
「殺人でも事故でもないとすると、自殺ですか」
 戸川の言葉に、志万の口から唸り声が洩れた。

「でも自殺にしては、おかしな死に方ですよね。わざわざ窮屈な洗濯機の中にはまりこんで自殺なんかするでしょうか。だいいち、いくら細身の体でも自分ではまり込むのは無理じゃあないですか」
素朴な疑問だった。
志万は今日まで多くの事件を解決に導いたが、その時の確信に近い勘とは異なっていた。
確信の持てない勘だった。それでも、長年の刑事としての経験が、志万に何かが違うことを教えていた。

「五里霧中だ」
志万は腕組みを解いてボソリと言った。
「志万さん、忍倉の叔母には何て言って知らせましょうか。検死解剖が終われば遺体を引き渡してやらないとだめでしょう」
志万がやおら立ち上がった。机の上の大学ノートと資料を鷲づかみにすると、勢いよくドアに向かって歩き出した。
「戸川、行くぞ」
志万の背中越しに飛んできた声に、戸川はあわてて後を追った。
建物を一歩出た途端に汗が噴き出してきた。暑さは一向に衰える気配を見せない。志万の足取りは速かった。コンパスの長さでは、戸川の方が断ぜん長い。志万がいくら速歩で歩いても、戸川は悠然とついて歩くことができた。吹き出る汗を拭いもしないで、戸川は志万の後についていた。
「志万さん、どこへ行くんですか」
無言で歩き続ける志万の後から、戸川が声をかけた。
「徳島だ」
足も止めずに志万が答えた。
「徳島って、僕もですか」
戸川が志万の前に廻り込んで言った。足は動いているので戸川は後ろ向きに歩く格好になった。
志万が足を止めた。
「嫌なら来なくていいぞ」
志万が見上げた戸川の顔に喜色が浮かんでいる。
「嫌だなんて、とんでもない。一緒にいっていいんですね」
戸川は歩き出した志万に肩を並べた。


忍倉哲の眼前に、遠い日の光景が繰り広げられていた。
閃光に包まれたように真っ白の世界があった。その中で、少女の凌子が横たわっている。その姿も光に溶け込んでしまったかのように真っ白だった。額にも頬にも唇にも色はなかった。傍らに表情を無くしたまま、凌子をみおろしている中学生の哲がいた。周りで数人の人間が慌ただしく動きまわっていたが哲の目には凌子しか映っていなかった。

やがて人々の手によって凌子は運び去られた。一人になった哲は、その場にうずくまり全身を震わせていた。膝の間に顔を埋めて、捕まえた何かを逃がさないようにしっかりとその膝を抱え込んでいた。



洗濯機の中の水が音を起てて跳ね上がった。哲は我に返った。目の前の光景が一瞬にして消え失せた。
「凌子、気持ちよくなったかい」
哲の目に洗濯機の凌子が映っていた。椅子を立って声をかけながら哲は洗濯機に近寄った。開いたままになっていた蛇口をしめる。水の音が止み、静寂が辺りを覆った。

哲は膝を折って洗濯機に抱きついた。ひんやりとした感触がバスローブを通して伝わってきた。
「ああ、気持ちがいいね凌子」
哲はうっとりとした声を出した。
「叔母さんがね、写真を見せながら言うんだ。早く身を固めて安心させてくれって。僕には凌子が居るといってもわかってくれないんだよ。居なくなった人のことをいつまでも言っていないで、早く忘れてしまえって。凌子、君はここに居るのにね。あの時、凌子は僕だけのものになった。あれから僕達はずっと一緒だったのに。どうして解ってくれないんだろう」

哲が囁くように言うと、洗濯機が軋んだ音を発てた。
「そうだろう、君だってそんなこと言われたら悲しいよね。でも悲しまなくていいよ。僕には凌子しかいないんだから、凌子以外の女となんか決して結婚しないからね。他の人間の物を凌子に洗わせることも絶対にしないよ。あの時も、君はお兄さんの下着を洗っていたよね。君は笑っていたけど、本当は厭だったんだ。僕にはそれが分かった。だから凌子を、僕だけのものにしてあげたんだよ」

哲は洗濯機を抱えたまま話を続けた。
「だけど、今日叔母さんが出てきたということは、これから益々うるさく言ってくるのだろうな」
哲は眼を閉じた。洗濯機に手を回したまま、もたれかかるようにしゃがみこんでいた。
「凌子、結婚しよう。僕たちが結婚してしまえば、叔母さんもうるさく言ってこなくなるよ。僕は決心したんだ。凌子がいるだけで幸せだったから、今日まで延ばし延ばしにしていたけれど、今日こそ結婚しよう。僕を凌子だけものにするためにもね」

自分の言葉に酔ったように、哲の表情は恍惚としていた。
哲はゆっくりと立ち上がると、その場でバスローブを脱ぎ捨てた。洗濯機の縁に腰を掛けて両足を洗濯槽の中にいれると、冷やりした感触が両の足を包み込んできた。哲は夢見心地になっていた。
それから、静かに洗濯槽の中に体を滑り込ませた。膝を折り曲げて屈もうとしたが、うまく屈めなかった。

「凌子、痩せているじゃないか。前はもっとゆったりと僕を抱いてくれていたのに」
洗濯槽の中で立ち上がった哲は、水の中に手を入れて槽の内側をやさしくさすった。
「ごめんよ、僕が叔母さんの持ってくる縁談の話を聞かすたびに、君は心を痛めていたんだね」
哲の声は甘美な響きと、思いやりに満ちていた。

それも今日で終わりだよ。これから僕たちはひとつになるのだから」
哲は、もう一度慎重に膝を折った。関節が水の中で気味の悪い音をたてた。水が大きく波打った。
「うまくいったよ、凌子。子どもの時に、嫌な家庭教師にこれを見せてやったんだ。そうすると、気味悪がって必ず辞めていくんだ。おもしろいだろう」

陶酔した笑みを顕わにして、哲の体が萎えたように洗濯槽の中に沈んだ。水が音を発てて溢れ出た。洗濯機の表面を幾筋もの流れになって、伝って落ちていく。




検死の結果、忍倉哲の死因は溺死だった。他に大腿、膝、肩、肘の四か所の関節脱臼が認められた。死後およそ十日が経っていた。
忍倉哲の叔母を訪ねて行く途中だった。乗り継ぎのバス停で、出発したばかりのバスを志万と戸川は見送っていた。次は四十五分後までなかった。
「志万さん、どこかでお茶でも飲みませんか」
戸川が情けない声をだした。声とは裏腹にその表情は弾んでいた。

「俺はいつも、おまえのその情けない声に騙されるんだよ」
志万が苦々しげに言った。
「僕は志万さんのその優しげな顔で、動かされているような気がするんですけど」
優しげ、を強調するように戸川が言い返した。

「志万さん、我々が洗濯機の中を見た時は中に水は入っていませんでしたよね」
バス停の近くに見つけた、古びた喫茶店で志万と戸川は対座していた。死因が溺死という部分は声を落して言った。狭い店の入り口に近いテーブルに二人は座っていた。他に若い三人のグループ客がいた。奥のテーブルに陣取った三人は声高に話をしている。志万と戸川に全く関心を示してこないことが二人には幸いしていた。

運ばれてきたアイスコーヒーに、志万は手を伸ばした。ストローを使わずにそのまま口に運ぶ。
店の雰囲気を全く裏切ることのない、ひどい代物だった。志万が渋面をつくった。
「まずいですか」
それを見ていた戸川が、上半身を乗り出して訊いた。真面目な顔をしていたが目が笑っているのがわかった。

志万が渋面をつくったのは、コーヒーの味のせいだけではなかった。何とか考えはまとまってきているのだが、どうしても結論が出せないでいるのだ。
忍倉哲の叔母に話を聞いたところで、結論がだせるかどうかも確信は持てていない。
知らず知らずに渋面になっていた。
 

透明の時(1)

 投稿者:秋水 冽  投稿日:2009年 3月28日(土)17時42分18秒
編集済
   瓶の口からゾロゾロとうじ虫が這い出てくる。
瓶は、白いペンキが少し剥げたテーブルの上にあった。

立秋を過ぎたところだった。日中の日差しはまだ強くうんざりするほどの残暑だった。マンションの、広すぎると言ってもいいぐらいのベランダに、ポツリとテーブルとイスが置かれていた。テーブルの足元に汚れたバスローブが絡みついている。壁際に日焼けの為少し黄ばんだ洗濯機が見える。瓶の傍に、ビールの缶が転がっている。

ベランダには異臭が漂っていた。テーブルの周りで、数人の男達が慎重な動作で動き回っている。その中で二人の男が洗濯機を挟むように立って、中を覗いていた。一人は、若くて背が高かった。もう一人の方は、がっしりした肩幅で五十になるかならないかの年格好に見える。

「殺人(ころし)でしょうかね、志万(しま)さん」
顔をあげながら、若い男は傍らで汗を拭いている男に問いかけた。
洗濯機の中で男が死んでいた。手足を折り曲げ、隙間無くピッタリとはまりこんでいる。まるで
缶詰めでも開けたときのようだった。全裸の死体の所々が腐敗を始めている。

「わからん。どっちにしても我々は両方の線から調べてみなければならない」
志万と呼ばれた年配の刑事は、汗を拭っていたハンカチを無造作にズボンのポケットにねじ込んだ。はめている白い手袋の指先が、鼠色に汚れていた。志万はテーブルに歩み寄った。
瓶の口でうごめいているうじ虫を指先で弾き飛ばして、瓶を取り上げた。

指紋採取が済んでいるのは確かめてあった。異臭が鼻を突いていてくる。ラベルに目を走らせる。[潤香]と印刷された青い文字が読み取れた。
「志万さん、さっき見たときから気になっていたんですけど[じゅんこう]って、なんですかね」
若くて背の高い男が訊いた。

『じゅんこう』志万は、腹の中で反芻して苦笑した。『ちがいない』
「これぁな、うるかと読むんだ」
瓶の蓋を閉めながら、志万はサラリと言った。その名に当てられた漢字を疑いたくなるような悪臭が、鼻の奥に残った。

「へえ、うるかと読むんですか。なるほど、言われてみればそうですね。うるかかぁ」
妙に得心したように語尾を延ばして、若い男は納得顔になった。
「で、これって、何なんですか」
志万はそう言う男の顔を見据えた。若い顔に、新しい知識を吸収しようとする貪欲さが見て取れた。

「鮎の腸腑を塩漬けにしたものだ」
言いながら志万は手の瓶を、若い男に向けて差し出した。
「戸川、これを持って帰ってくれ」
「え」
虚をつかれて、戸川と呼ばれた若い男は瓶を受け取りながら一歩後ずさりした。

「これは徳島の特産品だ。珍味とされているものだから、そうお目にかかれるものじゃあない。
どこで売られてどんな人間が買っていったか調べてこい」
「志万さん、よくご存知なんですね。へぇ徳島の特産……ね」
戸川は感心したように、間の抜けた声を出した。

「でも、志万さん」
テーブルの周りにいた鑑識課員たちは、すでにその場を離れていた。
「同じことを二度は言わないぞ、戸川」
刑事としてたたき上げの志万だった。

一級国家公務員の資格を持って配属されて来た戸川と、コンビを組まされて一年半になる。階級は戸川が上である。だが、戸川がそれを嵩にきたことはない。それどころか、志万の後輩刑事としての立場を一貫してきていた。志万も戸川の意思を受け入れていた。敢えて、上司として扱うことはしなかった。

どこか茫洋としたところのある戸川だったが、志万の指示する激務にも音をあげずによくついてきていた。時には育ちの良さからくる鈍感さに苛立つこともあるが、優れた警察官になるだろうと思わせるものを持っている。志万はそんな戸川が嫌いではなかった。

「これ、持って行っていいんですか」
「かまわん、報告は俺がしておく。少々臭いがな、我慢しろ。なんならそれで一杯やってもいいぞ」
「少々どころじゃありませんよ、志万さん。これは、かなわないや」
わざとらしく鼻をつまんでから、戸川は署から持ってきたビニールの小袋に瓶を入れると、上着のポケットに落とし込んだ。

死体の身元は判っていた。この部屋の住人だった。名は忍倉哲(おしくらてつ)、年齢三十五歳。
変な臭いがしてくると、同じマンションの住人からの苦情で、管理会社の担当者が鍵を開けて、死体を発見したのである。




死体が発見される十日前、
「ただいま。凌子、帰ったよ」
忍倉哲は、玄関を開けるなり奥にむかって声をかけた。汗が噴き出してくる。熱気の籠もった部屋の中は静まりかえっている。灯りもついていなかった。

「凌子、いないのか」
靴をぬぎながらもう一度声をかけた。哲はまっすぐリビングに入って行き、壁のスィッチに手をのばした。カチリという音と同時に、部屋の中が煌々と照らし出された。
室内は整然と片付けられている。哲は部屋の中を見回してから、鞄と手提げの紙袋を床に置いた。
「どこに行ったんだ」

つぶやきながら服を脱ぎはじめた。足元に背広の上着やズボンが無造作に重なり落ちる。最後にトランクスを脱ぎ捨てると哲はキッチンにはいって行った。冷蔵庫の中の缶ビールを取り出すと、次に食器棚の引き出しから割り箸を手に取った。
リビングに戻った彼は、紙袋のひもに中指をひっかけると、ベランダに通じているガラスサッシの引き戸をいっぱいに開け放った。

温もりの残った外気が全身を包み込んでくる。それでも、部屋にはいるなり熱気に包まれて火照った身体には充分に心地よかった。
ベランダに出ると洗濯機にチラリと視線を送って、テーブルに歩み寄った。
哲にとっては、ここがどこよりもいちばん安息できる場所だった。ベランダに灯りはない。

リビングから漏れてくるだけのかすかな灯りだけが視界の頼りだった。持ち出してきたビールや紙袋を丸いテーブルの上に置いた。洗濯機に正対して置かれた洒落たデザインのイスに哲は腰をおろした。缶ビールのプルトップを引くと、空気の抜ける音がして僅かな泡が指を濡らした。指の泡を舐めてからビールを口に含む。心地よい苦さが喉を通っていく。

「凌子」
呼んでみた。目の前にある洗濯機が、風に吹かれたようにカタカタと音をたててかすかに揺れた。
「なんだ、居るんじゃないか」
哲はイスから立ち上がり、洗濯機に歩み寄った。閉めてある蓋の上を両の手の指先で撫で、その手をゆっくりと側面にすべらせていく。

「凌子、さっき僕がただいまと言った時、なんで知らん顔していたんだ」
哲は愛おしそうに洗濯機を抱え込んだ。
「凌子、お願いだから僕にいじわるしないでくれよ」
抱きかかえたまま、洗濯機の蓋に頬を押し当てて、哲は切ない声を出していた。

洗濯機が小刻みに振動した。哲は身体を起こし、もう一度蓋の上をそっと撫でた。
「機嫌を直してくれたんだね。よかった」
哲は踵をかえしてリビングにはいって行った。脱ぎ捨てたままの下着を拾い上げると、ベランダにとってかえした。

洗濯機の蓋をあけて、下着を洗濯機の底に丁寧に置いた。その上から洗剤をふりかける。
「凌子、いつものように僕のせんたくもの、きれいにしてくれるよね」
蛇口をひねった。注水口から勢いよく水が流れ出てきた。洗濯機がブルッと身を震わせた。
哲はタイマーのダイヤルを回した。水は出したままだ。いつもこうしていた。

洗濯機が靜かに回転し始めた。回転と反転を繰り返す。そのたびに水が勢いよく渦を巻く。哲はしばらくその渦の動きを見ていてイスに戻った。
紙袋の中から、袋の大きさには不釣り合いな小さい瓶を取り出した。

「うるかを貰ったよ。凌子も好きだっただろ。こどもの頃、おやじの酒の肴に買ってあったのをこっそり持ち出して、二人で食べてしまってよく叱られたことを覚えているかい」
哲は、洗濯機にむかって語りかけながら瓶の封を切った。




署の刑事室に、戸川が汗と埃で顔をベタつかせて帰ってきた。夜の九時をまわったところだった。
「志万さん、だめでした。かなり足を延ばしてスーパーやデパートにあたってみたんですが、どこもこの[潤香]は扱ったことがないと言っています」
入ってくるなり志万の姿を見留めて、戸川は堰を切ったように言った。そう言いながら部屋の隅に置いてあるポットの冷えた茶を一気に三杯飲み干した。

人心地ついたという顔をして、志万の隣にある自分の机に着いた。
「ごくろうさん」
回転椅子ごと体を戸川に向けて、志万は今しがたまで読んでいたノートを手渡した。
「なんですか、これ」
「読んでみろ」

戸川がノートを広げて目を走らせる。頁を追うにつれて、彼の顔に怪訝な表情が浮かんできた。戸川が顔をあげた。
「死んだ忍倉の日記だよ。散発的につけていたようだな」
「だけど志万さん、忍倉は一人暮らしをしていたはずじゃあないですか」
戸川はノートに目を落とした。

「これじゃあ、同居者がいたみたいだ」
「戸川、明日一番に忍倉の故郷(くに)をアラってくれ。今日、ホトケの勤め先だった会社へ行ってきたが、こっちは問題なさそうだ」
戸川が弾かれたように椅子から立ち上がった。

「それだったら、調べてきました」
上着のポケットから手帳を取り出して、パラパラと頁を繰った。指を止めたところでメモした内容を読み上げる。

「忍倉は、徳島の出身です。今でも本籍は徳島にあります。現場となったマンションに転入してきたのは十七年前です。忍倉の年齢から計算すると十八歳の時ですね」
志万は腕組みをして宙の一点を見つめていた。戸川は間の抜けたことをしでかす事があるかと思うと、志万の考えていることを先読みして妙に感心させるところもあった。これが戸川のいいところなのだ。宙を見ていた志万の口元が綻んだ。

「志万さん、なにか」
戸川が生真面目な顔をして訊いてきた。
志万は視線を戸川の顔に移した。そこには謎を解明するために真剣に臨んでいる、汗と埃で汚れた
若い刑事の顔があった。

「うん――戸川、忍倉の身寄りはこっちにはいないようだ。おまえ、あした本籍地の所轄署にあたってみてくれ」
志万は、現場検証が終わった後、隣近所やマンションの周辺を聞き込みに廻った。共通していたのは、殆どの住人が、忍倉とは面識がなくどのような生活をしていたのか知らないというものだった。

断片的にでてきた情報を繋ぎ合わせてみて、忍倉は一人暮らしで訪れてくる人間はいなかったらしいことが判ったくらいだった。
志万は机の上の大学ノートを手に取ると頁を開いた。読み返してみる。次の頁もまた、丹念に読み返してみた。記されている日付は一か月のうちの一度か二度しかない。

どの日付の書き出しも、凌子という呼びかけで始まっている。それも、共に生活していると思わせる内容だった。

洗濯機の中で奇妙な死に方をしていた忍倉哲の姿を、志万は思い起こしていた。
 

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